工場から黒い煙が立ちのぼり、油にまみれた町、螢光町。この貧しい地の廃墟へ、深夜に集まる9人の中学生がいた。この秘密基地の名は「光クラブ」。強いカリスマ性と天才的頭脳を持つゼラが、他の8人を感化し従えている。
学生服を着こんだ光クラブのメンバーは、敬礼やドイツ語を重要な符牒とし、ゼラが作り上げた規律を重視していた。
彼らは今夜、この秘密基地を覗いてしまった女を捉えた。拘束された女はゼラに「きみ、常川君でしょ?!」と呼びかける。彼らが通う螢光中の先生だったのだ。女教師に向かい、ゼラは「ここにおいて我はゼラと規定される」と宣言する。他の少年たちもこの光クラブにおいては、ニコ、雷蔵、カネダ、デンタク、ダフ、タミヤ、ヤコブ、ジャイボという通称で呼び合っていた。
光クラブのメンバーは醜い大人を否定し自分たちだけの世界をつくるため、兵器として機械(ロボット)を開発していた。巨大な鉄の塊で作られた機械(ロボット)が動く燃料は、楊貴妃が好んだ永遠の美を象徴するライチの実。その機械(ロボット)は「ライチ」と名付けられ、悪魔の数列666でいよいよ起動する。ライチに与えられた目的は、光クラブに美しい希望をもたらす「少女の捕獲」。だがライチは美の概念を知らず、掴まえてくるのは人間以外や、美しくない大人ばかりで失敗が続く―
小学生の頃、ダフとカネダの3人で光クラブをつくりクラブのリーダーであるタミヤは、ゼラの思想に危険性を感じはじめていた。一方ゼラは、光クラブに裏切り者がいることを疑い、ジャイボに不安を打ち明ける。そして、誰よりゼラを信奉するニコは、タミヤの行動に疑いをもち敵意の目を向ける。
光クラブ内で愛憎が入り乱れ、裏切りもの探しがはじまる中、プログラミング担当のデンタクは、ライチに禁断の概念をインプットした――「私は人間だ」と。雷蔵とヤコブが懸命に美の概念を教えたことも手伝って、ライチはとうとう美少女の捕獲に成功する。ゼラは眠れる美少女に「少女一号」と名付け、少女を性的対象として見ることを禁じる。基地に誰もいなくなった夜に、目覚めた少女はライチを恐れるが、彼が命令をインプットされただけの無垢な状態であることに気づき、「わたしはカノン」と名前を打ち明ける。
タミヤは光クラブを一緒に作ったダフとカネダに、「俺は大人になることを否定しない」と打ち明け、ゼラに対して同じ違和感を覚えていたことを確かめ合う。ライチが間違えて捕獲してきた大人たちが、食事も与えられず監禁されたままなのを案じ、彼らを逃がそうと考え、ダフとカネダに協力を頼むタミヤ。その夜、ダフはこっそりと眠る少女の元へ赴く。女の子に触れたい欲望を抑えられなかったのだ。しかし自慰行為に耽るダフを、巨大なライチの手が振り払う。
翌日、タミヤを待ち構えていたのは、少女を性的対象として見つめ、大人たちを逃した罪で捉えられたダフの姿だった。ゼラから規律違反による処刑役を命じられるタミヤ。共犯の容疑で捕まったカネダが、タミヤがゼラを裏切るつもりだったと告白していたのだ。恐ろしい粛清が行われる様子を、眠ったふりをしながら盗み見ていたカノン。その夜、彼女が歌うレクイエムで、ライチは〈悲しみ〉という感情を知る。カノンから「人間であるためには、人を殺してはいけない」と諭され、ライチのプログラムにはゼラの命令と、カノンに導かれた人間性の間で混乱が生じていく。
ゼラの14歳の誕生日が刻々と近づいていた。大人になってしまう寸前の時。果たして、少年が願う大人のいない永遠の美の王国は実現するのか……。