古屋兎丸による、カルト的人気を誇るロングセラーコミック「ライチ☆光クラブ」が満を持しての映画化。少年同士の愛など、センセーショナルな話題に富む本作に挑んだのは、新進気鋭の監督・内藤瑛亮。長編一作目となる『先生を流産させる会』(12)では、過激なテーマで世論を騒がせたが、その才気溢れる映像表現が新たな才能として注目される。その後も継続して作品を撮り続ける、いま最も勢いのある若手映画監督のひとりだ。今回、原作の圧倒的世界観を精緻にすくいあげながら、さらにオリジナルを掘り下げるような音と色彩感覚で迫った作品を完成させた。
物語は黒い煙と油にまみれた町・螢光町で、廃工場の秘密基地に集う「光クラブ」を結成した少年たちの、大人になる前の脆く、残酷で多感な思春期を描く。光クラブを率い、大人のいない世界を理想とするカリスマ・ゼラや、謎めいた美少年ジャイボ、ゼラの思想に反発をおぼえていくタミヤなど、14歳を目前にした9人の少年たちによる裏切りと愛憎の物語が耽美に、時にユーモアを交えて展開する。そして物語のキーとなるのは、永遠の美の象徴として囚われる美少女カノンと、少年たちが作り上げた思考する能力を持つ機械(ロボット)ライチ。巨大で恐ろしい見た目と裏腹に、カノンへ優しい愛情を抱く。人間らしくありたい意志と、プログラミングされた宿命の狭間であがく機械(ロボット)ライチの切なさが胸に迫る。
内藤監督とは『パズル』以来2度目のタッグとなり、「恋仲」(CX)、『ちはやふる』(16)など話題作への出演がつづく野村周平が、光クラブのリーダー・タミヤ役を演じる。物語を牽引するゼラ役には、9頭身の帰国子女でミスター慶應という、超ハイスペック俳優の古川雄輝が、好青年ぶりを封印し、徹底した非道キャラを熱演している。今回、紅一点のヒロインとなるカノン役には、花王メリットピュアン、ポカリスエットのCMで話題の中条あやみを抜擢。ファースト写真集が異例の販売部数を誇り、人気急上昇中の間宮祥太朗による妖しい美少年ジャイボも見どころだ。そして、機械(ロボット)ライチに命を吹き込んだのは、『銀魂』坂田銀時役などで人気の声優・杉田智和。深みのある声が、ライチを通して人間の不条理な深淵を覗かせる。このほか、殺陣やアクロバットなアクションを得意とし、舞台でも絶大な人気を博す池田純矢、同じく主演の舞台公演が即完売するなど熱狂的なファンが支持する松田凌、多くの映画やテレビドラマで活躍する戸塚純貴、『みんな!エスパーだよ!』の怪演で役者の幅を拡げた柾木玲弥、マーティン・スコセッシ監督『沈黙』への出演で注目される藤原季節、渡辺えりと共演する東京ガスのCMが好評の岡山天音らが脇を固める。役者として活躍を期待される次世代を担う若手俳優たちが、現場でしのぎを削り合った演技合戦に注目ください。
本作では、映像面も目を奪う大きな要素だ。美術を担当したのは『るろうに剣心』(12~14年)シリーズなど大友啓史監督作品で注目を集める橋本創。本物の廃工場を利用したロケセットは、原作の世界観をリスペクトしながらも、映画でしか作りだせない壮観さを生みだした。スチームパンクの要素をとりいれ、時代性を加味して新たに解釈された玉座は、本作の象徴といえる。衣裳デザイン・キャラクターデザインを手掛けるのは、『るろうに剣心』シリーズや三池崇史監督作品などを手掛ける澤田石和寛。光クラブメンバーの制服には、キャラクターの個性を引き出すため、少しずつデザインに変化をつけるなど徹底した。そして、ライチのキャラクターデザイン及び特殊メイク・造形を担当するのは『寄生獣』(14)、『進撃の巨人』(15)など日本映画界を代表する特殊メイクアップ・デザイナーの百武朋。舞台版ではライチを役者が演じるのが定番となっているが、映画版ではオリジナルで創り上げた造形物を動かす撮影手段を選んだ。ライチのデザインは、当初、現代的でスタイリッシュなデザイン案も上がっていたが、試行錯誤した結果、ノスタルジックで親近感のある造形になっている。
さらに編集を、矢口史靖監督や西川美和監督のほとんどの作品を手掛ける宮島竜治が担当。監督をはじめ気鋭のチームで編成されたスタッフで作り上げた世界観を、大ベテランの手腕で、一大エンターテイメント作としてまとめあげている。